ゲームサウンドの歴史と制作技術の進化｜名作に学ぶ音楽表現のルーツとは

ゲームサウンドの始まりは「ピコピコ音」

1970年代後半から1980年代初頭にかけて登場したアーケードゲームや家庭用ゲーム機では、サウンド制作に使える回路やメモリ容量が非常に限られていました。当時の音楽は「PSG（Programmable Sound Generator）」と呼ばれるチップと、MML（Music Macro Lauguage）と呼ばれるアセンブラマクロで作られた、いわゆる“ピコピコ音”が主流です。

こうした制限の中でも、限られた音数や波形を駆使してリズムやメロディが生み出され、独自の魅力を持ったサウンドが数多く誕生しました。初期のゲームサウンドは、演奏時間の制限や同時発音数の制約がある中でも、ゲームの世界観を表現するための工夫に満ちていたのです。

チップ音楽の黄金時代

1980年代後半から1990年代にかけては、ファミリーコンピュータ（FC）、メガドライブ、スーパーファミコン（SFC）といったゲーム機の登場により、ゲームサウンドも大きな発展を遂げました。パソコンやメガドライブでは「FM音源」によって音色の幅が広がり、SFCでは「PCM音源」によって実際の楽器に近い音が出せるようになったことで、作曲の自由度が一気に高まりました。

この時期には、独自のメロディラインとコード感で印象に残るサウンドが多く生み出され、現在でも「名曲」として語り継がれる作品が数多く存在します。限られた音数や容量の中で、いかに印象的なサウンドを構築するかという点において、今なお学ぶべきエッセンスが詰まっています。

ゲーム音楽と専任作曲家の登場

初期のゲームサウンドは、エンジニアやプログラマーが兼任することも多かったものの、1980年代後半からは「ゲーム音楽専門の作曲家」が登場するようになりました。例えば、ゲーム音楽に独自の世界観を持ち込んだコンポーザーの存在が、ゲームサウンドに新たな芸術性を与えました。

この流れは、後のゲームサウンドが「BGM」という単なる演出ではなく、ゲーム体験を支える音楽作品として認識される礎となります。

ルーツを知ることで得られる視点

ゲームサウンドのルーツを知ることは、現代の音楽制作に活かせる視点を得るうえでも有益です。限られた手段でも印象的な体験を生み出す工夫や、ハードウェアごとの特性を活かした音作りは、現在の制作環境でも通用する発想の源になります。

ハードウェアの進化がもたらした音の自由度

1990年代以降、ゲーム機の処理能力とストレージ容量の向上により、サウンド制作の幅が大きく広がりました。特に、CD-ROMの導入は音楽表現に革命をもたらしました。実際の演奏を録音した音源や、ボーカル入りの楽曲が使用可能となり、それまでの「ゲームらしい音」から「作品世界を音楽で描く」時代へと移行します。

この時期には、ジャンルごとにサウンドの傾向も分かれ始め、RPGでは壮大なオーケストラ風BGM、アクションゲームではテンポの速い打ち込み系BGMなど、演出目的に応じた多様なスタイルが生まれました。

音楽のインタラクティブ化とダイナミックBGMの登場

2000年代に入ると、ゲームの演出がよりリアルタイム性を重視するようになり、BGMにも「動的な変化」が求められるようになります。例えば、プレイヤーの行動に応じて音楽が変化する「ダイナミックBGM」や、「クロスフェード」技術によって異なる曲調を滑らかに切り替える演出が一般化しました。

これにより、ゲームサウンドは単なる背景音から、プレイヤーの感情や状況に直接働きかける“体験の一部”として再定義されていきます。

ジャンルごとに異なる流行の波

ゲームジャンルによってサウンドのトレンドも異なってきました。例えば、以下のようなものです。

RPG（ロールプレイングゲーム）

シンフォニックで叙情的な音楽やケルト音楽など。旋律重視の名曲が多い

シューティングゲーム／アクションゲーム

ハードロック、エレクトロ系、チップチューンなど高テンポで刺激的な音が主流

ホラーゲーム

アンビエントミュージック、環境音重視で音の「間」や「静寂」も演出に取り込まれる

このように、流行は単なるジャンル依存ではなく、技術と美学の交差点として絶えず変化してきました。

ストリーミング時代の音楽制作と変化

近年では、YouTubeやSpotifyなどのストリーミングプラットフォームを通じて、ゲーム音楽が単独の音楽作品としても広く聴かれるようになりました。この傾向により、制作現場でも「ゲームをしていなくても聴かれるBGM」という視点が意識されるようになり、サウンドトラックとしての完成度が重視されています。

また、リリース後のアップデートやイベントに合わせてBGMを追加・差し替えすることも一般化しており、ゲームサウンドの“消費のされ方”も進化しています。

このように、技術やユーザー環境の変化とともに、ゲームサウンドは時代ごとの個性をまといながら進化を続けてきました。

記憶に残る旋律の設計力

名作ゲームの多くに共通するのは、「数秒でそのゲームと分かるメロディ」が存在することです。例えば、ファミリーコンピュータ時代の代表作「スーパーマリオブラザーズ」では、シンプルながらも印象的なモチーフがゲームBGMで繰り返し使われ、プレイヤーの記憶に強く定着しました。

制限された発音数や音色の中で作られたにも関わらず、多くの人に愛されるメロディが生まれたのは、作曲者が旋律の構造や間の取り方を徹底して考え抜いた結果です。

ゲームサウンドと演出の一体化

名作とされる作品では、ゲームの演出と音楽が密接に連動しています。例えば、ボス戦で突然BGMが変化することで緊張感を演出したり、ステージごとに音楽の雰囲気を変えることで場面転換を印象づけたりといった工夫が随所に見られます。

インタラクティブミュージック

RPGやオープンワールドのゲームでは、シーンに合わせて、シームレスに音楽や環境音が変化することが求められます。最近のトレンドでは、通常のフィールド移動から違和感なく戦闘に移行するような音楽設計も重要なスキルです。

このように、音楽が“雰囲気作り”以上の役割を果たしていることこそが、名作サウンドの特徴です。視覚と聴覚が同時に働くことで、プレイヤーの没入感は飛躍的に高まります。

時代を超えて影響を与える音楽性

1980〜90年代のゲームサウンドは、現代の作曲家やリミキサー、DJなどにも大きな影響を与えており、チップチューンやレトロサウンドとして再評価されています。テンポやコード感、モチーフの展開方法といった技法は、現代のBGM制作にも応用可能です。

また、名作に使われたサウンドの多くは、サウンドトラックとしてリマスターされ、演奏会やオーケストラコンサートとしても再現されるなど、ゲームの枠を超えた文化的価値を持ち続けています。